大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

釧路地方裁判所網走支部 昭和36年(日)983号 決定 1962年2月15日

申立人 清水数子

主文

本件忌避の申立はいずれも却下する。

理由

本件忌避申立の趣旨及び原因は別紙速記官忌避の申立書記載のとおりである。

よつて按ずるに当裁判所に係属する冒頭に掲記の訴訟事件の第十一回口頭弁論期日に証人福山夏夫外七名に対する証人尋問が行われたこと、同事件の第十六回口頭弁論期日に右証人のうち五名に対する証人尋問が再度行われたこと、右証人の再尋問には速記を付す決定があり釧路地方裁判所所属裁判所速記官鈴木元雄が右速記にあたり、右速記官鈴木元雄、同井上哲司が右速記原本を反訳して速記録を作成し、右速記録が証人調書に引用され訴訟記録に添付されて調書の一部となつていることはいずれも一件記録上明白である。

ところで本件忌避の申立は右裁判所速記官両名に対してなされたものであるが、裁判所速記官について民事訴訟法に定められた忌避の諸規定の適用或は準用があるかどうかについては同法には何等の規定もないこと、裁判所速記官による速記は同法第百四十八条にいう速記者としての速記のうち裁判所速記官が右速記者に選任された場合に過ぎず右速記者について忌避の諸規定の適用について規定がないこと、更に右速記を反訳した速記録であつても裁判所が速記録の引用を適当でないと認めるときは調書に引用しないで排除する余地が残されていること等を綜合すれば適用は勿論準用もされないと解する余地がないわけではないがひるがえつて考えると裁判所速記官による速記が前記法上の根拠に基づくものであつても同速記官は一般の速記者と異なり裁判所の職員であり、その職務の内容は裁判所速記官の制度が設けられた趣旨、民事訴訟規則第九条の三乃至七の諸規定等を併せて考えると従来書記官が担当した職務内容のうち口頭弁論の陳述の録取を速記という方法によつて可及的に分担して行うものであり、右速記には速記機械(ソクタイプ)を使用するものであつても録音機の如く全部が機械によつて自動的になされ作為の余地がないものでなく又反訳についても単なる機械的な操作であるけれどもその間に作為の余地が考えられないものではないことを考えるならば裁判所書記官について規定のある忌避の制度が準用されるべきであると解するのが相当である。

しかしながら前記裁判所速記官両名が前記第十六回口頭弁論において速記しこれを反訳して作成した速記録を改ざんして記載し、前記第十一回口頭弁論において録取された各証人調書と大差なきものとし、証人調書改ざんの事実を隠ぺいせんとして裁判記録を変造したとの申立人主張の事実は一件記録を精査してもこれを疎明するに足る資料がない。

よつて右主張事実をもつて裁判の公正を妨げる事情があるとする本件申立は結局理由のないものとしてこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 松井薫 金子仙太郎 梶本俊明)

速記官忌避の申立書

申立の趣旨

御庁昭和三四年(ワ)第七一号名誉回復損害賠償請求事件について、

速記官 鈴木元雄

同 井上哲司

に対する忌避は理由があるとの御裁判を求めます。

申立の原因

申立人は原告として被告畑伊三郎外一名に対し、名誉回復損害賠償請求の訴を提起し、目下昭和三四年(ワ)第七一号事件として、御庁で審理中のものでありますが、担当速記官の左記事実は裁判の公正を妨げるものでありますから、茲に速記官忌避の申立をいたします。

昭和三五年一〇月二五日の第一一回口頭弁論期日の法廷において尋問した証人福山夏夫外七名の証人調書が実際とは著しく違えて記載されているので、その事実を明らかにするため、昭和三六年一〇月一六日の第一六回口頭弁論期日の法廷において、さきの証人のうち五名を再尋問し、大部分については証人も改ざんされている事を認め、明らかとなつたにも拘らず、同日法廷において録取したものとして担当速記官により作成された速記録には明らかとなつたものの相当部分を更に改ざんしてこれを記載し、結局さきの改ざん調書と大差なきものとしてあるが、これは証人調書改ざんの事実を隠ぺいせんとして裁判記録を変造したものであります。

疎明方法

本件口頭弁論期日の法廷において証人として被忌避速記官を尋問するにより。

昭和三六年一一月二七日

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例